西田 善太

雑誌BRUTUSが動画を始めた理由


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株式会社マガジンハウス 取締役 西田善太さん

「届けるチカラを強くする。」

― メジャーなカルチャーメディアのBRUTUSが、2023年5月より動画のリリースを始めました。
特集にひもづいたBRUTUS ORIGINAL MOVIEシリーズ(BRUTUS.jp/movie)は、映像業界でもとても話題となっています。

これはどのような意図で始められたのでしょうか?

西田:プレゼンスの強化、という答えに尽きます。 10ブランドあるマガジンハウスの雑誌が優れたコンテンツであることに自信を持ってはいますが、90年代と比べて書店が半数に減り、圧倒的なコンテンツ量がネットに生まれている現在、コンテンツに注力するだけでは人々には届きません。キーになるのは「Contents is King, Distribution is Queen」という考え方です。コンテンツの充実は当然のこととして、編集の領域がコンテンツを人々にどう届けるかまで考えなくてはいけない。どの道筋で表現するのがいちばんよい企画か、誌面なのか映像なのかポッドキャストなのかweb記事なのか。「プリント」「web」「SNS」、そのすべてを通して、雑誌ブランドを育てていくんです。ですから「届ける力を強くする」という言葉を、社内で繰り返し伝えています。そのための最大の施策が動画です。
― なぜ、動画が最大の施策なのですか?
西田:まず、プラットフォーマーが、ユーザーの滞在時間を重要な評価指標にしている、という現実があります。動画は現在、もっとも届きやすいフォーマットであり、かつ、人々を滞在させるとても有効なフォーマットでもあります。広告費の推移もあります。webでの動画市場は2025年には1.2兆円まで成長するという予測が出ましたね。ここで自分たちのコンテンツを動画ジャンルでも試さないわけにはいきません。

BRUTUSらしい動画とは?

― BRUTUS ORIGINAL MOVIEを拝見しましたが、とてもBRUTUSらしい美しい映像だと思いました。これはどのように制作しているのですか?

西田:BRUTUSは隔週刊なので毎月1日と15日発行です。1年に23冊発行されますが、動画も同じく23本、それぞれの特集に連動した企画のオリジナルムービーを作ることを、BRUTUSの田島朗編集長が決めてくれました。映画、インテリア、本、旅、食、ゲーム……と毎号、テーマががらりと変わる本誌特集の動画ですから、1本1本、担当するディレクターもトーン&マナーも尺も違ってきます。ただ、BRUTUSの作品リールとして1年分、23本並べると、そこにBRUTUSの個性が浮き出てくるようにと意識して組み立てています。

基本はSNS用の15秒程度の短尺・縦長画面と、BRUTUS.jp用の長尺・横長画面の2タイプとして配信しています。インスタグラムでのSNS用動画は、リーチしたアカウントが65万を超えたものもあります。しかもBRUTUSのフォロワー外から80%のアカウントが見てくれている。強い動画は、新たなブランド認知のチャンスをくれるんですね。全体として時短傾向のある動画ですが、BRUTUS.jp掲載の長尺では30分を越えるものも配信してみました。特集「怖いものみたさ」で怪談師の語りを十全に見せるものですが、驚いたことに全編を通して観る完全視聴率がはねあがりました。Web動画は短尺の方が有利という常識へのチャレンジとして、これも新しい知見となりました。

BRUTUS-Youtube

動画制作の知見を社内に溜める。

― この動画は内製しているのですか?

西田:僕が統括しているブランドビジネス局内に映像チームを作りました。雑誌への理解と愛情がある外部のプロデューサーと契約をしてスタートしているので、純粋な「内製」ではないですが、slack(業務連絡ツール)で動画ごとにチャンネルを作り、関係者全員が参加できるオープンな方式を取っているので、我々が同時に経験を積み、知見を貯めることができます。BRUTUSを中心に、&PremiumやGINZA、Casa BRUTUS、ananなどとも特集動画や、広告動画を作り始めています。各プロジェクトで得た経験がすぐ横に繋がるので、急激な速度で皆が「映像の勘所」を身に着けているという感覚です。編集部だけでなく、広告営業部門の担当も、メニューの作成、スケジュールの見立てなど、発注に対して即応できる体制を作り上げてきました。

― ということは、今後マガジンハウスとして広告動画に力を入れていくわけですね

西田:広告動画制作は各雑誌デジタルが、すでに何年にも渡って制作しています。各雑誌ロゴのもとに制作する動画もあれば、数誌が競作をして盛り上げていくキャンペーンもあります。クライアントからの動画作成の要請に即応できる体制が整いつつあると思います。編集部で培った人脈や関係性をいかしたキャスティングなど、雑誌ブランドだからこその広告動画を作り上げていこうと思います。

― 今後、雑誌ブランドはどう変わっていくと思われますか?

西田:プリントメディアで長年培った企画力、人脈、編集力をベースに、さまざまなディストリビューションが可能なデジタルを使いこなして、「届けるチカラを強くする」ことで、さらに魅力的なコンテンツとなっていくと思います。例えば、POPEYE編集部の若手は、いい企画を思いつくと、これはポッドキャスト向きかな? インスタライブがおもしろい、web連載だとこうなるよ!……と、今の状況を「届ける手立てが無限にある」と楽しんで作っているんですよ。さまざまな届け方を作り手が身につけ、駆使して、多様な人々にたくさんの楽しみを届ける。今回、興味を持ってくださったBRUTUS ORIGINAL MOVIEもその手段のひとつに過ぎません。ここからどう発展していくか、自分たちも楽しみにしているんです。

株式会社マガジンハウス 取締役 西田善太

株式会社マガジンハウス 取締役/ブランドビジネス局(旧広告局を統合)、クロスメディア事業局担当。前BRUTUS編集長(2007年〜2022年)。早稲田大学卒業後、’87年、博報堂・コピーライター職を経て、’91年マガジンハウス入社。ブルータス編集部に配属後、女性誌「Ginza」「Casa BRUTUS」の創刊に関わる。2007年ブルータス編集長就任。「居住空間学」「音楽と酒」「珍奇植物」「刀剣乱舞」「BRUTUSのサンデーソング・ブック」「なにしろラジオ好きなもので」「猫のこと」など次々と新しいテーマを発見、独自の切り口でライフスタイルを提案、14年間で322冊の特集を送り出した。現在はデジタルを中心とした雑誌ブランドビジネス、デジタル・プリント両面の広告ビジネス、またスタジオ機能としてクリエイティブチームを担当する取締役。